月例研究会

造形教育センター 6月月例研究会報告「モノとぶつかる価値―子どもたちの姿から」

 2025年6月、造形教育センター月例研究会を開催しました。今回は、「モノとぶつかる
価値」をテーマに、教育的視点からの考察を深める機会としました。講師には昭和学院短
期大学准教授の馬場千晶先生をお招きしました。馬場先生は長年「美育文化ポケット」編
集委員を務められており,幼児の造形を専門として保育者養成に関わっています。
今回も園での子どもたちの様子をもとに多くの事例をお話してくれました。「モノとぶ
つからない子ども」を切り口に、講演テーマとして「かこむ」という言葉が提示されまし
た。子どもたちが常に「かこんでいる」存在であること、そして,「形」や「遊び」がい
かにして意識によって囲まれたものとして立ち上がるのかをお話しいただきました。例え
ば、バスに乗車をしている短い時間にあやとりに没頭する小学生、水たまりに入って歩く
ことそのものを遊びとする園児、マンホールに手形を残す行為など、子どもたちは目の前
の素材や空間を「都合のいいかたち」に囲い込みながら、自らの世界を生み出しています
。ルースパーツ(再利用素材)を用いた遊びも、自由度の高い創造性を支える具体例とし
て印象的でした。さらに、室内での遊びとして紹介された「大仏ごっこ」や、恐竜や人魚
をつくった横に絵本を置いて世界を広げる姿、ユニコーンの絵を持ち歩く子、壁に貼られ
たお化けの絵を「空から降ってくるはずだった」と泣いて訴える子など、すべてが子ども
自身による意味づけと世界づくりの営みであることが浮かび上がりました。
また、子どもたちだけの世界には「透明な警察官」がいて、大人には干渉できないルー
ルが存在するという話には、大人の役割を考える上での示唆が含まれていました。保育者
の関わり方としては、「余計なことをしない」という姿勢が重要であり、子どもの主体的
な遊びを尊重し、安心して活動できる環境を整えることが求められます。
センターが70周年を迎える今年、改めて原点に立ち返る必要性を感じています。造形教
育は、決して大人が結果を決めつけるものではなく、子どもたちが素材や空間、他者と「
ぶつかる」ことで、自らの世界を築き、広げていく営みです。教師はそのプロセスに寄り
添い、見とり、土を耕すバクテリアのような存在でありたいと考えます。今後も、子ども
たちの小さな「ぶつかり」や「囲い」の中にある大きな価値に目を向けながら、造形教育
の可能性を模索していきたいと思います。