造形教育センター351期4月月例研究会が開催されました。今回の研究会では、「コスパとプロパ」をテーマに、講師として漆職人の手塚氏の工房朱文筵工房へ伺い、実践とディスカッションを通して考察を深める機会となりました。
本期の研究テーマ「子どもが“世界”をつくるとき」を踏まえ、4月研ではとりわけ「時間をかけること」の意味に焦点が当てられました。近年、「タイパ」「コスパ」といった言葉に象徴されるように、効率や即時性が重視される社会状況の中で、造形教育において時間をかける営みがもつ価値をあらためて問い直すことが試みられました。
当日は、まず漆器製作に必要な「要具」がどのようにして生み出されてきたのかを記録した映像が紹介されました。長い年月をかけて培われてきた技術や方法が、どのように現在へと受け継がれてきたのかが具体的に示され、漆という素材を支える見えない時間に触れる機会となりました。続いて、それらの要具を実際に手に取りながら観察する時間が設けられ、素材や道具の質感、重み、使い込まれてきた痕跡に直接触れることで、映像で見た内容が身体的な実感として結びつきました。ただの筆や刷毛、ヘラではない、大きな物語の一部として、見え方が大きく変わりました。興味深かったのは「要具をつくってくれる職人さんがいて、要具があって、初めて漆器づくりができる」という手塚氏のご発言でした。出力された漆器一つ一つが生み出されるまでを考えると、「ものをつくる」という行為を一度立ち止まり、俯瞰してみるきっかけとなりました。
また、「時間をかけること」は目的として設定されるものではなく、対象に惹かれ関わり続ける中で結果的に立ち現れるものであるという視点でした。時間をかけているという意識よりも、漆という素材の魅力に応答し続けてきた結果として、その営みが形成されていることが語られました。子どもの造形活動においても、「時間をかけよう」としているのではなく、没頭する中で時間の感覚そのものが希薄になる状態が見られることが指摘されました。時間という概念に縛られているのはむしろ大人の側であり、時間を忘れるほどの関わりの中にこそ、造形の本質があるのではないかという視点が浮かび上がりました。
後日いただいた意見として、造形行為を人間が素材を操作する営みとして捉えるのではなく、素材のもつ性質や力と応答し合う関係性として捉える視点も示されました。長い時間をかけて培われた技術は、効率性の追求というよりも、素材との緊張関係の中で生成されてきたものであるという捉えは、造形行為の理解を広げる契機となりました。
今回の研究会を通して、子どもの造形活動と手塚氏の営みには、共通する構造があるのではないかと考えられます。子どもは授業という枠組みや教師が設定した題材のねらいの中で活動しており、手塚氏もまた、作品を販売することを前提とし、購入者との関係や費用対効果といった外的な価値の中に身を置いています。いずれも、その営みの外側からは、効率性や成果といった観点、すなわち「タイパ的な評価」にさらされる構造をもっているといえます。
しかし、その内側に目を向けると様相は異なります。子どもも手塚氏も、「時間をかけている」という意識のもとで営みを行っているわけではなく、対象に惹かれ、関わり続ける中で、結果として時間が積み重なっているにすぎません。この点において、両者の営みは根源的に共通しているといえます。
ここに見られるのは、外的な評価としての効率性と、内的な没頭としての営みとのあいだに生じるズレです。このズレは、時間を「かける/かけない」といった量的な問題として捉えるのではなく、対象との関係の中で立ち上がるプロセスとして捉え直す必要性を示しています。本研究において提示された「プロパ」という概念もまた、このような視点から再考されるべきものであり、時間は目的としてかけられるものではなく、関わりの中で結果的に立ち現れるものとして捉え直すことが求められます。
今回の研究会は、造形教育における「時間」をめぐる理解を深めるとともに、本期の研究テーマである「子どもが“世界”をつくるとき」において、外的な枠組みの中でいかに内的な営みを捉え、支えていくかという問いを浮かび上がらせる機会となりました。今後も、子どもたちが時間と身体を通してどのように「世界」を立ち上げていくのか、その具体的な姿に目を向けながら探究を続けていきたいと思います。
最後に、今回の研究会では本会員の植林恭明先生(和光小学校)からご紹介いただき、当日も準備からワークショップの手伝いをしてくださいました。ありがとうございました。植林先生が所属される「美術教育を進める会」の全国大会のご案内をいただきましたので、ご紹介いたします。
和光小教員・大会実行委員長の植林恭明と申します。
私たち美術教育を進める会は、この夏、東京・世田谷、和光小学校を会場に、全国研究大会を開催いたします。
テーマは「人とつながる 素材と触れあう 宝の山はここにある」です。各地で頑張っている教師・保育士が出会い、互いに励ましあえる仲間になること、授業や保育が楽しみになる描画・ものづくりなどの題材を学びあうことをねらいにしています。
全体講演には、作家・画家のなかがわちひろさんをお招きします。
「おたすけこびと」「せかいでいちばんつよい国」「天使のかいかた」など、翻訳・絵本・幼年童話・児童文学など、さまざまな作品を発表されているなかがわさんより、制作に込めた想い、子どもたちに伝えたいことを学びたいと思います。
乳幼児・小学校・思春期・特別支援、とさまざまな立場で子どもに関わる人々が一堂に集まる貴重な機会です。ぜひご参加ください。
申込はこちらから↓
https://susumerukai2026tokyo.peatix.com/











