月例研究会

351期5月月例研究会報告

「子どもが“世界”をつくるとき 幼児の姿・児童の姿〜実践報告〜」

2026年5月24日(日)、東京学芸大学附属竹早中学校4階美術室にて、造形教育センター351期5月月例研究会が開催されました。今回の研究会では、今期の研究テーマである「子どもが“世界”をつくるとき」を手がかりに、幼児期と小学校段階における子どもの姿をもとに、造形活動を通して子どもがどのように自分の世界を広げ、つくり変えていくのかを考える機会となりました。

はじめに、研究部長の橋本正裕先生より研究部提案が行われました。今期のテーマである「子どもが“世界”をつくるとき」は、子どもがあらかじめ用意された世界に到達するということではなく、造形活動を通して、自分自身、他者、素材、環境との関係を捉え直し、自分にとっての世界の見え方を更新し続ける営みとして示されました。そこには、完成や成功だけではなく、迷い、停滞、思い通りにいかないこと、試行錯誤そのものを造形の大切な過程として捉える視点があります。また、社会がタイパ・コスパで時間が圧縮される中、もの固有の時間があり、時間のあり方についての示唆がなされた。

橋本先生の実践報告では、小学校の子どもたちが素材や作品と関わる中で、自分の思いを少しずつ変化させていく姿が紹介されました。一度「できた」と思った後に、友達の作品を見たり、自分の表現を見つめ直したりしながら、さらに手を加えていく姿には、子ども自身がまだ言葉にできない問いを抱え、作品を通して考え続けている様子が表れていました。また、作品の目を動かしたい、口を動かしたいという思いから、何時間も試行錯誤を重ねる子どもの姿からは、素材が子どもに語りかけ、子どもがそれに応答していくような関係性が感じられました。教師がすぐに答えを与えるのではなく、子どもが「どうしたらできるか」と考え続ける時間を保障することの大切さが改めて確認されました。

続いて、至誠館大学の海沼恭史先生より、幼児の造形活動についての実践報告が行われました。海沼先生は、幼児は新生児期からすでに内的な世界を持っており、ひと・もの・こととの関係を通して、その世界を発見し、広げ、再構成していく存在であると語られました。段ボールで車をつくる子、絵の具に触れることをためらいながらも友達や実習生との関わりの中で少しずつ関心を広げていく子、砂場での川づくりから遊びが周縁へと広がっていく姿など、幼児の世界が一つの中心からだけではなく、偶発的な出来事や他者との関係によって動き出す様子が具体的に示されました。

特に印象的だったのは、幼児の「なんで?」「どうして?」という小さな気づきが、世界が揺れ、組み替わる瞬間として捉えられていた点です。石や木や葉を叩いたときに、同じように見えていたものから異なる音が生まれる。その差異の発見が、子どもの中に新たな問いを生み出していきます。素材は単なる道具ではなく、子どもの仮説を揺らし、世界を広げるきっかけとなる存在であることが見えてきました。

後半のトークセッションでは、幼児、小学校、中学校、高校、それぞれの段階における「気づき」の表れ方について意見が交わされました。低学年では身体感覚を通して、中学年では振り返りを通して、高学年では言語化を伴いながら、子どもの気づきが深まっていくという視点が共有されました。一方で、子どもの気づきと教師の気づきを混同しないこと、教師の見取りが子どもの世界を狭めるのではなく、次の変容につながるように働くことの重要性も確認されました。

また、「委ねる」ことについての議論も深まりました。子どもに委ねることは、何もしないことではありません。教師が子どもを信じ、最終的な責任を引き受ける覚悟を持ちながら、どこまで手を出し、どこで待つのかを見極めることでもあります。自由は放任ではなく、題材や場、関係性の中で支えられた自由であるということも、今回の研究会で大切な視点として浮かび上がりました。

今回の研究会を通して、幼児と児童の姿は発達によって異なりながらも、造形活動を通して自分の世界を広げていくという点で深くつながっていることを感じました。子どもは、素材に触れ、友達と関わり、思い通りにいかない出来事と出会いながら、自分にとっての世界を少しずつつくり変えていきます。教師や保育者に求められるのは、その小さな変化を見逃さず、面白がり、価値づけ、次の活動へとつなげていくことではないでしょうか。

「子どもが“世界”をつくるとき」とは、特別な完成作品が生まれる瞬間だけを指すのではありません。子どもが素材にもう一度手を伸ばすとき、友達の姿に影響を受けて動き出すとき、思い通りにならないことの中で考え続けるとき、その一つひとつの中に世界がつくられているのだと思います。今後も、子どもの具体的な姿から造形教育の本質を問い続けていきたいと思います。(文責:秋山朋也)