12月月例研究会

◆平成20年12月21日(日) 午後3時~5時 
◆お茶の水女子大学附属中学校 美術室

平成20年最後の研究会は、川合克彦先生と奥村高明先生の講演に、多くの参加者がお茶の水女子大学附属中学校に集まりました。参加者それぞれが自分の考えや実践と照らし合わせ、造形教育のありかたや、取り組み方を深めることが出来た研究会になりました。

【中学生と共同制作】(2008年読売教育賞最優秀賞)
  川合克彦先生 川崎市はるひ野小中学校

2003年からの取り組みをまとめたものを読売に提出した。
学校長は声楽で有名な方である。そこで、音楽と美術を融合したもの「芸術総合」という発表会の形式をもった。全校生徒を3つのグループ(縦割りによるグ ルー プ)に分けた。テーマは子どもたちが話し合い、「平和」に決定した。ピカソの『ゲルニカ』から発想し、戦争についての話し合いが深まった。作品は 1ヶ月半程で仕上がった。意見のメインは、主に3年生によるものだった。3年生が全体を引っ張っていくということを、下級生も理解していた。遠慮しながら ではあるが、下級生も意見を出し、大きく話し合いの流れが変わっていく瞬間が何度もあった。子どもたちには初め、「反戦」ではなく、「戦争」という実感が なかった。授業では、海外の平和でない国々について話すゲストティーチャーが招かれた。作品はグループごとに3つ制作した。話し合いを重ねていくうちに、 面白いテーマに変わっていった。子どもたちは、平和で当たり前に暮らせることが豊かであるということに気付いた。

<VTR 3月の発表の様子(合唱・作品についての説明)・NHKからお借りしたVTR(戦争のシーン)>

次年度のことを考えていたが、転勤になった。転勤先で「芸術総合」の授業をして欲しいという依頼があったが、すぐに始めら れる状況ではなかった。看板などは美術部の生徒につくらせた。だんだんと、装飾的なものは自分たちがやるのだという自覚が芽生え始めた。部員も増え始め、 自ら卒業制作をしたいという希望を出した。生徒たちが意欲的になってきたので、次年度、創立50周年記念にちなんで、全校生徒で共同制作の取り組みをやっ てみようと思った。その頃には美術部員は45名にまで増えていた。50周年記念に何か制作して欲しいと部員に伝えると、子どもたちは猛反対した。先輩たち には伝えたい思いがあって共同制作に取り組んだ。自分たちも「伝えたい思い」を伝えさせてもらえるのかという質問が出た。会議に企画を出した後であった が、企画は取り止めとなった。子どもたちには「伝えたい思い」があり、「先輩たちを超えたい」という思いがあった。子どもたちは話し合い、巨大モニュメン トをつくることになった。壊れても、子どもたちには10日間で再生する力があった。

<VTR ニュースで紹介されたもの「平和への願いをこめて」宮内中学校美術部 キッズゲルニカへの取り組み>

子どもたちがどのような思いでどのように成長していくのかは、去年まで見抜くことができなかった。子どもたちが身に付けていく力の素晴らしさを感じた。失敗をすることで教師も学ぶことができる。

現在勤務する学校は、小学生と中学生が一緒に生活する。自分が一番興味をもっていることは、「小中連携」である。図書室では、小学生の図書委員と中学生の図書委員が一緒に仕事をしている。小学生と中学生が一緒に「はるひ野レインボー」というテーマで絵をかいた。

 

ますだ先生:川合先生の発表を伺い、自分の中で位置付けがはっきりとした。ものをつくるときの一番大切なところを貫いていたので、聴いていて胸が詰まる思いがした。今後に非常に期待される。

春日先生:授業数カット等の事情で、大掛かりなものが実践されなくなった。日常の中で美術が貢献していくことは大変素晴らしいことである。時間のない中で、どのように工夫して実践されていたのか、教えていただきたい。

川合先生:子どもたちに「面白いことをしよう」と投げかけると、子どもたちは面白がって取り組む。時数は、以前と比べれば少なくなっているが、子どものやる気は失せていない。時間を見付けて取り組むことはできる。我々には、つくる楽しさを伝えていく使命がある。

名達:子どもたちが望むところを実現していくためには、1人では難しい。保護者の理解と協力があったのではないか。文化として広げていくためにはやはり工夫があったのではないか。

川合先生:保護者へはプレゼンテーションしていくことが大切である。宮内は作品を展示していても破かれなくなったというア ピールをする。職員には子どものしたことを褒める人が多い。引き継ぎに関しては物理的なことはいろいろあるが、子どもを育てる思いがあることが一番大切で ある。形が変わっても、子どもの思いは変わらない。

竹内先生:言葉の中に考えさせられることが多くあった。川合先生には、美術教育の大切さを訴えていただいた。作品制作より も伝えるメッセージがあったことが大切である。その辺りのところをまた整理して伝えていただきたい。子どもたちにどのような声かけをしたのかをリストアップして教えていただけるとうれしく思う。

奥村高明先生
国立教育研究所教育課程センター教育課程調査官
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官

演題 『造形教育の意義と課題』

講演会

● 指導主事協議会が行われた。
全国都道府県から1名ずつ集まり、9時間程かけて解説書の解説をする。小学校の指導要領についての質問はゼロだった。小学校教師は指導要領をすでに自分のものとして理解できている。

  1. 評価規準の具体化に〔共通事項〕を使うとストンとくる。現場とタイアップして見付けることができる。

 

● 川合先生の発表から学んだこと
生徒1人1人が自分やみんなの思いを大事にしようとしている。1人ではできないことを共同制作でできる。絵をかくことが目的ではなく、絵をかくことを通し て学ぶことがある。作品をつくること自体に意味がある。教師自身がつくり出すことが好きであることが大切である。

  1. 民間教育団体の意義について

    研究会では、一言も聞き漏らすまいとしてメモを取る教師の姿が見られる。研究の良いところを大切にして学ぶ。教材研究が、薄い教科書を支えている。自分の中に課題がある。

春日先生:

奥村先生:中教審には、いろいろな人の意見がある。個人の意見と中教審の意見は同じではない。中教審の人の意見のほとんど は、「図工・美術は大事である」ということだ。世論では、「学校だけが悪いわけではない」ということが言われている。中教審では十分な議論がされている。 我々が世の中にもっと働きかける必要がある。

春日先生:さまざまな民間教育団体に参加しているが、美術教育観に溝や行き違いがあるように
思う。

奥村先生:子どもがアンケートに書くと、6割が「美術嫌い」だという結果が出る。しかし、小学校で図工が好きな子どもは7 割だ。中学校でつくった作品を小学校の先生に見せ、インタビューすると、小学校の先生が「子どもの成長」を見ていることに気付く。単に描写力で子どもを見 ていない。小中連携において、「子どもが十分に成長した」という意識が必要ではないか。生きる力を育てるために、図工・美術が大切である。ものをかく・つ くること自体が重要である。

小泉:時間数のことを伺いたい。「芸術総合」のような形で行っていきたい。時間数が少ないなりにやっていかなければならない。普段の生活の中で生まれてくるものであり、教科の中で定着していかない。できれば時数を確保していきたい。

奥村先生:1人1人にできることをしなければ、世の中は変わらない。世の中は1人で変えられる。

小泉:美術教育はもっと頑張っていかなければならないと思っている。いろいろな場で発言する機会を与えていただきたい。

奥村先生:子どもの絵を商店街に展示している地域がある。店主さんは、うれしそうに自分の孫ではない子どもの肩に手をかけ ている。駐車場を潰しても、「子どもの絵のほうがずっといい」と言う。埼玉県知事も観に来た。県知事も動かせるのが地域の人の力である。割り算引き算の考 えではなく、掛け算足し算の考え方で美術教育を変えていけないだろうか。子どもの絵はさまざまな人々をつなぎ、地域社会をつくることができる。

石賀:目的と手段は入れ替わることがある。

奥村先生:「臨画化」とは、私がつくった言葉である。「昔の人は絵が上手かった」をいうが、そうではない。社会ネットワークがなくなっているだけだ。時代 が変わっても、題材は変わらない。昔の題材を模倣する。生活や社会とのつながりが抜け落ちている。子どもが自分で考えると、面白い題材や主題を選ぶ。パ ターン化されない。子どもはかくことをやめない。教科書を理解・研究し、発達段階を考えながら教材を研究する。教科書、教材セットは敵ではない。舞台に入 り込んで、子どもの資質・能力を伸ばすことができる。場の設定は、子どもにとって非常に有効な手立てである。