12月月例研究会

 ◆平成24年12月15日(土) 午後2時45分~5時00分 
 ◆東洋大学 6410教室

◆講演会「もう一つの視線」
  講師 岩崎清 氏
(ギャラリーTOM副館長、日本ブルーノ・ムナーリ協会代表、
NPO法人視覚障害者芸術活動推進委員会委員長)


◆会場 東洋大学白山校舎(6号館3階 6307教室)  

 会に先立ち、北澤委員長のあいさつ、山田研究部長より国際交流委員会についての活動報告、夏目静岡支部長より来年5月に予定されている静岡における月例研究会についての案内がありました。

 150人収容の大教室に、岩崎氏のお話を聴こうと大勢の参加者が見られ、予定時間を越えてまで活発な質問や、それに対して岩崎氏が丁寧にお答えいただき、意義深い研究会となりました。
 講演は、岩崎氏による触察本「手で見る北斎- 冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」について、また今秋パリにおける触察本関係の調査研究の最新報告、ブルーノ・ムナーリが子どもの城で展開した8つのプログラムについて等々、造形の領域を越えて、文学や哲学、心理学の分野にまで及ぶ幅広い、それでいて奥深いお話を伺うことができました。
 ある美術の先生から好きなものを否定されたことがきっかけで、美術から文学に浸っていった十代の頃のお話や、ヘーゲルのドイツ観念哲学に傾倒していたにも関わらず、メキシコでの生活で世界観を変えられたご経験等も語られました。
 また、絵本やグラフィック・デザイン等で著名なムナーリを、岩崎氏が子どもの城にお招きし、4日間におよんで展開されたワークショップについてもご紹介いただきました。その中でも「線についてのワークショップ」については、線についての固定観念を解きほぐし考え直す方法論について、板書しながら図解を交えて丁寧にご説明いただきました。作家として造形教育の方法を考えた人は、ムナーリ以外にはいないという点で、造形教育に関わる貴重なお話でした。
  活発な質疑応答の中から、岩崎氏がソクラテスの産婆術のごとく、話しながら、哲学、心理学や文学等、造形の領域を越えてさまざまな話題に入り込んでいきながら、話を紡いでいく手法で、物事はすべてが通底しているということを示していただいたように感じられます。
  そのうちのいくつかを以下に挙げさせてもらいます。

「ものの見方は一方的であってはならない、奥行きや広がりを理解する」
「固定的な視点をゆるやかに解きほぐし、違う視点で見てみることの大切さ」
「もう一つの視点を持つためには、自分を壊す作業が必要となってくる」「何かを捨てないと得られない」
「生活の中から美的哲学を生む」
「難しい話でも本質を変えないで誰かに伝えることの大切さ」
「好きな科目の先生になると、理解できない子供の気持ちが理解できない」「強い理論はつぶれる」「緩やかな連帯が大切」
「artistは資質を与えられた存在で、それを近未来の大人になる子供の為に使う必要がある」
「違う世界を観ることの大切さ」
「学校の機能は、様々な思想を客観的に総括し、考え直し作り直す価値の再生産を行う」
「すごい人を育て支えてきた人たちのことを一般化することの大切さ(なぜ盲目のピアニストが育ったのかの分析の必要性)」
「受け止めて落とし込む」
「ぶらさず柔らかく」
「学んで自由になれる」等々…

語学にも堪能な岩崎氏ならではの、様々な国でのご経験を通して得られた広い視野と深いお考えから、我々にとって学ぶための多くのヒントを提示していただいた実のある研究会となりました。

 

研究会写真