◆平成24年6月17日(日) 午後13時30分~5時30分
◆東洋大学 6410教室
◆ 研究部より「夏研案内」
◆ 実践発表
① 川崎市立南生田小学校 伊藤龍豪 先生
「一人一人がつくりだす形・色・ストーリー ~ 紙バンドを使って ~ 」
② 都立上野高校在籍:東京学芸大学大学院 望月未希 先生
「イギリス ナショナルギャラリー『Take one picture』教育普及プログラム 他」
伊藤先生は、勤務校での紙バンドを使って作った立体作品の実践発表でした。(1)紙バンドとの出会い(2)床に座り、周りのことを気にせずとことん自分の気持ちにこだわり、形を変えていく(3)場合によって着色(4)校内のふさわしい場所に設置して写真に撮る、という流れの活動内容でした。児童の写真の構図やタイトルに、制作を通して巡り会った自分の気持ちや考えが反映されているように見受けられました。立体でのドローイングとも受け止められる活動内容でした。
望月先生は、現在大学院で取り組まれている研究実践に関連するご発表でした。先生が現地調査されたイギリスにおける、「『Take one picture』教育普及プログラム」という、ARTを戦略的に活用した国家レベルのプログラムでは、「課題となる一枚の絵画をもとに→解体→経験→作品として再構築」というプロセスが設定されています。一例として、地理や歴史等の調査、ディスカッション、演劇、物語や詩等の活動が、そのプロセスの中に入ってきますが、再構築された作品の中で優れた物は、ダ・ビンチ等の一流作品と同様の扱いでナショナルギャラリーに展示され、それらの年ごとのアーカイブもしっかりと確立されています。
大変刺激的な内容で、会場から様々な質問や意見が出され、熱のこもった議論が展開されました。
◆ 講演
聖心女子大学 水島尚喜 教授 「美術教育考現学 2011~2012」
今和次郎の考現学に習い、先生のここ2年間の体験的考察を通した「3.・11の大震災」「ダライ・ラマ法王との出会い」「様々な方々と」の三本柱でのお話を、臨場感あふれる多くのスライドとともに追体験出来るような内容でした。
震災後の被災地では、福島県立美術館内に世界中から贈られた鯉のぼりの下で、子どもたちが遊ぶ空間が演出され、岩手県の越喜来では、瓦礫の中にかろうじて残ったガソリンスタンドの屋根の下で、子どもたちの作品展が町の人によって開かれていました。これら被災された方々との交流の中に見いだされた、造形を通し希望を持って人と人とのつながりを創りあげていく取組に、造形教育に関わる我々の使命や出来ることの、多くの示唆が含まれていました。
一方、チベットからヒマラヤ越えをして亡命してくる子どもたちの、学びの村には、ユネスコ等の支援が入っており、そこでのダライ・ラマ法王との出会いと、学校での様々な取組が紹介されました。そこでの色や形から入る教育の重要性についても、その後の中沢新一氏の「子どもたちは形がどこから生まれてくるのかを本能的に知っている生き物」というお話も、忘れてはならない基本をあらためて教えていただいたように感じられます。
「造形教育の立場ではたして何が出来るのか」という視点でのお話は、先生の誠実で謙虚なお人柄がにじみ出てくるようで、会場がゆったりとした空気に包まれたようでした。造形を通して人と人とがつながっていくことの奥深さや、そこで出会う様々な人生の、どうしようもできない切なさにともなって、しかし「造形を通して共有し、つながり、わかちあうことができる瞬間がある」という何とも味わい深い感覚を、先生のお話から感じられました。